いろいろあります「不正経理」の危うい手口&見破り方
   
作成日:04/24/2006
提供元:月刊 経理WOMAN
  


いろいろあります「不正経理」の危うい手口&見破り方




 不正経理というと、経理担当者のみなさんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。最近はニュースなどで「不正経理」や「粉飾」といった文字が躍っていますから、どちらかというと「悪い実態を隠してよく見せる」という方が一般的に知られているかも知れません。

 これはもちろん不正経理なのですが、まったく逆のケースもあるのです。「業績がよいのに、意図的に利益を隠す粉飾」、これは一般に「逆粉飾」と呼ばれるのですが、その目的のほとんどは「税金を少なくする」ためです。

 今回は、通常の「粉飾(会社の業績を実態よりよく見せる)」をテーマとして、そのさまざまな手口と、見破り方について詳しく解説していきます。

■不正経理の行なわれる背景

 不正は人間が行なうものですから、そこには必ず目的があります。たとえば、決算を実態よりよく見せるために利益を増やしたい、外部から分からないように会社の金銭を自由にしたい、などといったものです。

 会社は、自社の1年間の業績(成績)を知るためだけではなく、金融機関などをはじめとする債権者、取引先、株主などの利害関係者に会社の状況を知ってもらうためにも、決算書を作成します。会社の業績が好調であれば、そのままを利害関係者の人々に見てもらえば済むわけですが、逆に会社の業績が悪ければ、決算書は当然にそれを反映した「見栄え」のよくないものとなってしまいます。

 それを見た債権者や取引先はどのような行動に出るでしょうか。そのような利害関係者は、会社の資金繰りが悪化したり、倒産などといった最悪の場合に備えて、取引を中止して今までの分を決済したり、融資しているお金を回収することになります。そうなってしまうと、利害関係者の想定外の行動によって本当に資金繰りが立ち行かなくなり、会社は倒産することになってしまいます。

 会社の経営者は、それを恐れて、実際には業績の悪いものを形式的に、つまり見た目を悪くないように粉飾して決算書を作るようになります。「業績がよくない。でも何とかして、会社を続けていきたい」経営者はこのことを考えた瞬間から不正経理(粉飾決算)に手を染めるといわれています。


■不正経理の手口とその見破り方

架空売上

架空売上の手口

 会社の業績が悪くなる原因は、それこそさまざまですが、もっとも影響の大きいのは売上の減少でしょう。新聞報道などでも目にしますが、日本ではいまだに売上高の大きさが重視されることが多いようです。そのため粉飾の手口としても、売上を不正に計上することが一般的に行なわれています。

 売上の不正計上の方法は大きく分けて二つあると考えられます。その第1は、翌期の売上を当期に繰り上げて計上してしまう方法です。

 たとえば、3月決算の会社が、本来であれば翌期の売上となる4月の売上を3月までの売上として計上してしまうのです。この場合、現金の入金はありませんから、売掛金を立てることになります。翌期に、それ以上の売上を得ることができれば帳尻が合いますから問題が発覚することは少ないのですが、そうでない場合、計上してしまった売上が足りなくなってしまいます。 そこで、その分を穴埋めしようと、また、その翌期に計上しなくてはならないものを、当期に繰り入れてくるというわけです。

 この方法で回っている場合はまだ問題ないのですが、繰り入れるものがなくなってしまった場合は、まさに「架空の売上(ありもしない売上のこと)」を計上させるしか手がなくなってしまいます。

架空売上の見抜き方

 これは架空売上の見抜き方に限らないのですが、経理担当者のみなさんが取引先などの信用状況を分析しようとする場合には、必ず「複数年度の決算書」を見るようにしてください。

 目安となるのは3年間分でしょう(あまり多くても混乱してしまうもとになりますし、取引先との力関係などにもよりますが、決算書を提出してくれるようにお願いできるのも3年間程度が限度になると思われます)。

 ここでは2年間分を例にとってみます。架空売上の見抜き方ですが、下の図表を見てください。

図表 架空売上の見抜き方


 ある会社の第X期の売上が4億6000万円、売上原価は2億9900万円ですから、売上原価率(売上原価÷売上高)は65%です。では、翌Y期を見てみましょう。売上が4億1000万円と減少して、売上原価が2億2000万円ですから売上原価率は約54%に減少しています。

 一見、売上が減少しているけれど、利益率が上がる商品を取り扱うようになったように思えます。しかし注意してください。営業利益と経常利益をよく見てみると、前期と比べてかなり下がっていることが分かります。

 それでは次に、貸借対照表を見てみましょう。第X期の売上に係る債権(売掛金と受取手形)の残高は3800万円ですが、第Y期の残高は5000万円となっています。つまり、売上は減少しているのに、売上債権が増加していることになります。

 これは現金で決済されていないということですから、翌期の売上を当期に繰り入れてきたか、もしくは架空の売上を作り上げて債権に計上した可能性が高いと考えられるのです。

在庫の水増し

在庫の水増しの手口

 会社の売上総利益は、「売上高-売上原価」で計算されることになりますから、この「売上原価」を少なくすれば売上総利益は増加することになります。

 では、この売上原価を少なくするにはどうしたらよいでしょうか。売上原価は「期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高」で計算されることになりますから、期末棚卸高が多ければ多いほど売上原価は少なくなることになり、売上総利益が増えることになります。

 つまり、期末に実際に残った棚卸資産(商品等)よりも多く在庫を計上することでこの操作が可能になるのです。上場会社など、公認会計士による法定監査が義務付けられている場合には「実地棚卸」といって、本当にその商品が帳簿どおりあるかどうか実査されますのでなかなか難しいのですが、そのような義務付けのない会社では在庫の水増しという粉飾は比較的容易に行なえます。

在庫の水増しの見抜き方

 ここでも損益計算書と貸借対照表を複数年度比較してみましょう。上の図表によれば、第X期の売上が4億6000万円、売上原価は2億9900万円ですから、先述のとおり売上原価率(売上原価÷売上高)は65%です。翌Y期については、売上が4億1000万円と減少して、売上原価が2億2000万円ですから売上原価率は約54%に減少しています。

 しかし、貸借対照表の棚卸資産を見てください。第X期の残高が2800万円であるにも関わらず、第Y期の残高は4100万円と大幅に増加しています。扱っている商品に大きな違いがないにも関わらず原価率が下がり棚卸資産が増えているような場合は、期末の在庫を意図的に増やして利益を大きく見せかけている可能性が疑われます。

 ただ、このようなことだけで絶対に在庫の水増しをしていると判断するのは危険です。会社の経営者や経理担当の人と話をする機会を作り、それとなく、扱っている商品に変動がなかったか、仕入れの状況(仕入先のコストダウンの有無)が変わったかなどを聞いてみましょう。従前と同じような取引をしているにも関わらず、例に挙げたような決算書が出ているようであれば「黄色」信号です。より詳細に検討する必要があるといってよいでしょう。


■その他の手口

 架空売上や在庫の水増しは、粉飾決算の手口として使われる典型的なパターンですが、この他にもさまざまな粉飾の手口があります。すべてご紹介することはできませんが、代表的なものを挙げておきます。

減価償却費の操作

 有形固定資産のうち、建物(附属設備)、機械といった、時間の経過と共に劣化したり価値が下がったりするものは、定率法や定額法といった方法で毎期減価償却費を計上して資産価値を表わしていくことになります。

 しかし、これらは実際に現金などが会社の外に流出するものではないため決算書に減価償却費を計上しないケースがあります。減価償却費を計上しなければ、利益を大きく見せることができますし、また、資産項目である建物や機械の簿価も減少しませんから、実際の価値よりも資産を大きく見せることが可能になります。この操作が行なわれたかどうかは決算書で簡単に見抜くことができます。

 というのも損益計算書の「販売費・一般管理費」において減価償却費の項目が出てきませんし、貸借対照表の建物や機械などの有形固定資産の額が前期と比較して変動がないからです。

その他の流動資産項目の変動流動

 資産の項目では現預金・売掛金・受取手形などについ目が行きがちですが、その他項目にも気を配ってください。

 貸付金や未収入金についていいますと、たとえば、子会社や関係会社といったところに貸し付けたはよいものの、貸付先の業績が悪化して回収不能になっている可能性が考えられます。また、前述した架空売上げの債権である売掛金が増え続けて、金額が大きくなってしまい、それを目立たせなくするために貸付金や未収入金に振り替えられたということが考えられます。

 ですから、現預金・売掛金・受取手形といった主要な流動資産項目だけでなく、その他の流動資産の項目にも目を配ってみる必要があるのです。

不良資産の隠蔽

 決算書の固定資産の部に目を向けてみましょう。最近では「土地価格が上昇」とか、「株式市場が活況」といったことがニュースなどで出ていますが、実際はバブルの傷跡はまだ今でも残っていると考えられます。というのも、土地や投資有価証券は固定資産の部に載ることになりますが、企業会計は「取得原価主義」といって、購入したときの金額で決算書に計上されることになるからです。

 時価会計や減損会計などが導入されたといっても、非公開会社の場合は厳密に適用されていないのが実情ですから、購入当時の高い金額で計上されていることも考えられます。時価が1000万円しかないのに、決算書上は5000万円などとされているケースも珍しくないでしょう。

 これらは複数年度の決算書を比較してみることで見抜くことも可能です。時価が高かった頃に購入した不動産が直近の決算書でもその金額のままだったり、以前は売買目的の有価証券(流動資産項目に計上)であったものが固定資産項目である投資有価証券などに振り替わっているような場合は、このケースとして疑ってみる必要があるでしょう。


■不正経理・粉飾決算に騙されないために

 これまでにいくつかの事例を挙げて、不正経理の手口とその見破り方を解説してきました。大口の取引の可能性がある、ということになると、会社(役員や営業担当の方)は浮かれてしまい、その影に潜んだ「取引先の嘘の決算書」を見落としがちになります。

 その嘘を見落とさないためにも、経理担当者のみなさんは、取引先からもらった決算書などがあるときは、必ずすべて目を通して、おかしなところがないかをチェックしましょう。そして、一つでも何か、疑問に感じたり不審に思ったりするところがあった場合には、きちんと確認するようにしましょう。

 このとき、「ウチの会社が信用できないのか!」などといってこちらの要求に応えてくれないような会社は、疑ってみた方がよいかも知れません。

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 以上、不正経理と粉飾決算について解説してきましたが、いかがでしたか。「目先のいい話に飛びつかないこと」これが不正経理・粉飾決算に騙されない極意かも知れません。経理ウーマンのみなさんも、決算書の読み方をしっかり勉強して不正や粉飾を見破る目を養ってください。

〔月刊 経理WOMAN〕