営業や経理職への“無条件の信頼”が危ないビジネスに差がつく防犯技術(3)(1/2 ページ)

第1回で説明したように、警察は性善説や性悪説でなく“性弱説”で考える。「動機」と「正当化」と「機会」の三要素がそろったときが、社内犯罪が起きる危険性が高まるのだ。不正や社内犯罪をどう防げばよいのだろうか。

» 2007年11月21日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

営業職を誘惑する不正機会の数々

 筆者は連載第1回で性弱説について述べた。職場の中に生まれつきの悪人がいるとは考えにくいが、弱みを持つ人間ならば探すことにさほど困らないだろう。営業職を誘惑する不正機会は、売上金の横領や経費の不正支出、資産の横領、雇われスパイなど、挙げればきりがない。

 売上金の横領とは、顧客から受け取った代金を会社に渡さずに自分のものにする手法だが、現金商売が少なくなった現在では難しくなってきている。

 それに比べて経費の不正支出や資産の横領といった悪事には手を染めやすい。発注者自身が納品受領する場合で、在庫として残らない経費支出については足が付きにくい。受注したカタログ外商品を営業所で発注して直送する場合などがこれに当たる。消耗品の横領ともなると、軽微なものも含めれば相当数の社員を告発しなければならなくなるかもしれない。

 しかし、企業にとって最も恐ろしいのは、目に見える資産の横領よりも、形のない情報を持っていく産業スパイである。情報ならば盗む必要もなく、リスクも少なくて済む。見返りも大きい。顧客データを持ち出すのはちょっと怖いが、口頭ならば酒の場で口がすべったくらいの言い訳ができる。どうせ上には不満があるし、このくらいの利得は仕事のきつさから思えばあったっていいだろう……。

 こんなことを考えている社員が絶対にいないと断言できるだろうか。

分からないでは済まされない購買承認の責任

 営業業務に負けるとも劣らず、不正の温床となりやすいのが購買業務である。

 その中でも最もポピュラーな不正は裏金取引だろう。購買といっても仕入部門だけの問題ではなく、購買稟議の元になる部署ならば、どこにでもあり得る話だ。

 裏口入学ならぬ裏口採用も購買不正の変形といっていい。口利きだけで謝礼がもらえる軽さが罪悪感を和らげるが、りっぱな利益相反行為である。購買不正で特に問題となるのは、稟議承認者の無責任さにある。

 「コンピュータのことは分からないからシステム部門に任せておけ」とか、「現場のことは事務員が一番詳しいから任せてある」とかいった話をよく聞く。内容が分からないままで押印する行為が、弱みを持つ人間を悪事へと後押しする。

 自分の立場を悪用しようとする社員には、必ず自分の監督責任を果たそうとしない上司が付いているものだ。

経理職への無条件の信頼が道を誤らせる

 不正機会という意味では、経理職は特別な存在といえる。

 現金や預金という会社の「お金」に直接横領する機会を持つだけでなく、注文書や請求書、出勤簿、手形、株券など、会社の「お金」に変えることができる書類が集まってくるため、書き換えや付け替えといった取引偽造の機会もある。お金を取り扱う仕事が危ないことは誰でも分かることで、だからこそ経理職に就く人には“信用できる”という観点から、真面目できちょうめんな人が選ばれる。

 しかし、よく考えてみてほしい。“不真面目できちょうめんでない人の仕事ぶり”で注意しなければならないのは、その性格から起こり得る「計算ミス」や「紛失」などであり、“不真面目できちょうめんでないから不正をする”というイメージに合理的な根拠はない。

 何度も繰り返すが、不正の危険がある人は弱み(動機)があり、不満(正当化)を持っていて、怪しまれない(機会)人だ。

 そう考えれば、経理職には「常に怪しまれない」という職場環境が用意されている。もし、「お金を工面しなければならない」といった弱みがあって、「不当に給与が安い」という不満を持つことにでもなれば、もはや危険水位である。

 真面目できちょうめんな人を信用することは間違いではない。無条件に信頼してしまうことが、人に道を誤らせてしまうのだ。

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