本格的な夏が近付き,落雷のニュースを聞く機会が増えてきた。電車が止まったり,停電したりするという被害が,毎週のように発生する。落雷は,ネットワークにとっても他人事ではない。ビルに雷が直撃して,中の機器が壊れてしまうといったことがしばしば発生する。

日本の雷対策は20年遅れ

 記者は,日経NETWORK2006年8月号で「ネットワークの落雷対策」を担当した。その取材で,日本の「標準的」なビルは内部に設置した機器を落雷から守る考慮がなされていないことを知った。欧米では20年ほど前から,内部に設置した機器を落雷から守る「等電位化」がビルの建築基準に織り込まれてきた。しかし,日本の建築基準はいまだに等電位化を必要条件にしておらず,現在でも雷に弱いビルが新築され続けているという。

 いったいどういうことなのか。日本では,ビルの落雷対策は避雷針の設置が中心だった。ビルを直撃する雷は避雷針に集められ,雷の電流は外壁に張られた導線を伝って避雷針用接地に逃がされる。こうすれば,雷の影響はビル内部に及ばないという考え方だ。しかしこの考え方は,間接的な雷の影響を考慮していないという欠点がある。

 実際には,落雷による大電流は,ビルの外壁を伝って流れているときに内部の鉄骨やケーブルに電流を誘起する誘導雷という現象を発生させる。また,ビルを直撃したりすぐそばに落ちた雷による電流は,ビルの接地から「逆流雷」となって入り込むことがある。しかも悪いことに,日本のビルの接地は通信用,電力用,機器用など,用途別に独立させてあるのが原則だった。複数の接地の間に電位差が生じたときに,電位の高い接地から逆流雷が吸い上げられ,途中の機器を破壊して電位の低い接地に抜けやすい。

 このような逆流雷や誘導雷による被害をビル全体で食い止めるというのが,欧米のビルで取られている等電位化の考え方である。等電位化のポイントは二つある。

 一つはビルの接地を統合することだ。まず複数あるビルの接地を統合することで逆流雷を防ぐ。出口の封じて雷の電流が通り抜けられないようにする。

 もう一つは,フロア内の機器はなるべく1点でアースを取って同じ電位になるようにする。こうすれば,誘導雷が発生しても機器に電流が入り込んだり,機器間のケーブルを電流が流れたりすることを最小限に減らせる。このため,ビル内に1本の接地用幹線を引き通す。そして,ビル内に設置する機器のアースは,フロアごとに1カ所で接地用幹線に接続する。接地用幹線は,各フロアでビルの鉄骨ともつないでおく。このような考え方でビルの等電位化を進めているNTT東日本は,「等電位化したビルで落雷被害は,ゼロになったとまでは言えないが激減した」と評価する。

御社の雷対策は大丈夫?

 このように,等電位化が落雷対策として優れていることははっきりしている。しかし現実に一般のビルでは,等電位化されていないほうが普通だ。2003年に改定されたJIS規格(JIS A4201-2003:建築物等の雷保護)で,ビルの等電位化が標準的な雷害対策として規定された。しかし,現実にどのように建物を等電位化するかの具体的な指針はまだない。共通接地がいいことがわかっていても,現実のビルでは個別の安全対策やノイズ対策が必要になるという。等電位化したビルを建築するには個別のノウハウが必要な段階なのだ。建築基準法では従来通り等電位化していないビルの建築も認められていることもあって,等電位化しているのは一部のビルに留まっている。

 自分の入居しているビルの落雷対策が不十分だからといって,別のビルに移転するというのは無理な相談だ。しかし,等電位化していないビルに入居しているからといって,雷対策はできないわけではない。重要なサーバーは,落雷対策のしっかりしたデータ・センターにアウトソースするという対策も取れるだろう。また落雷対策が不十分なビルであっても,費用をかければ1室に集まったサーバー群だけを落雷に強くするといったことはできる。雷シーズンが本格化する前に,自社が入居するビルの雷対策がどうなっているかを確認してみてはいかがだろうか。